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特集 戦争の代償と歴史認識
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」
これは、よく知られているように、明治期最大の啓蒙思想家である福沢諭吉が、『学問のすすめ』の中に記した一節である。この言葉は一般に、人間はみな生まれながらにして平等であるという、「天賦人権説」を福沢が高らかに唱い上げたものであると理解されている。
しかし、『福沢諭吉のアジア認識』『福沢諭吉と丸山眞男』『福沢諭吉の教育論と女性論』など、福沢諭吉に関する数多くの研究書を発表している名古屋大学名誉教授の安川寿之輔氏は、このような理解は福沢を過剰に「美化」したものであり、実際の福沢は、大日本帝国による朝鮮・中国に対する侵略戦争を肯定するイデオローグだったと指摘する。
9月3日、岩上安身が安川氏にインタビューを行い、福沢が残した文献をひとつひとつ繙きながら、侵略戦争のイデオローグであり、「ヘイトスピーチ」の元祖としての福沢諭吉の実像に迫った。
- 記事目次
- 福沢諭吉のアジア認識を検証する
- 「丸山諭吉」神話がもたらしたもの
- 福沢諭吉がアジア太平洋戦争の時代に存命だったら・・・
■イントロ動画
福沢諭吉のアジア認識を検証する
明治維新後、欧米の帝国主義諸国と列をなす決断をした日本政府にとって、日本列島の目と鼻の先に位置する朝鮮半島をいかにして勢力下におさめるかということが、焦眉の課題となった。
朝鮮半島の権益をめぐり、1894年に勃発した日清戦争を前に、福沢諭吉はさかんに朝鮮に対する武力侵略を主張している。
「我輩が斯く朝鮮の事を憂てその国の文明ならんことを冀望し、遂に武力を用いてもその進歩を助けんとまでに切論するもの」(1882年「朝鮮の交際を論ず」)
安川氏によれば、福沢は朝鮮を「半開国」と位置づけ、「文明国」である日本により、武力を用いて侵略されて当然である、と考えていたのだという。この点において福沢は、現在の「ヘイトスピーチ」にも相通じるような、朝鮮を蔑視する記述を数多く残している。
「朝鮮…小野蛮国にして…彼より来朝して我属国と為るも之を悦ぶに足らず」「朝鮮人は未開の民…極めて頑愚…凶暴…」「朝鮮人…頑迷倨傲…無気力無定形」「朝鮮人…上流は腐儒の巣窟、下流は奴隷の群衆」「朝鮮人…人民は正しく牛馬豚犬」…
安川氏によれば、福沢は日清戦争を「文明と野蛮の戦争」と位置づけていたのだという。西洋中心の「文明と野蛮」の構図をそのまま持ち込み、「野蛮」である朝鮮は、「文明」の側に位置する日本により、侵略されてしかるべき、という理屈である。
「丸山諭吉」神話がもたらしたもの
このような言説を残しているにも関わらず、福沢諭吉が明治期最大の啓蒙思想家であるとの認識が広まった理由として、丸山眞男による一連の福沢論の存在がある、と安川氏は指摘する。
戦後、戦前の日本型ファシズムを分析した論文「超国家主義の論理と心理」で一躍時代の寵児となった丸山は、自らが理想とする、主体的に物事を考え判断する「近代的知識人」の範型として、福沢諭吉を見出した。「福沢諭吉の哲学」や「『文明論之概略』を読む」など、丸山は福沢に関する多くの著作を残している。
しかし安川氏によれば、丸山は自らの思想を福沢に仮託しようとするあまり、福沢のテキストに対して「実体を超えた読み込み」を行ったのだという。実際の福沢は、同時代の知識人から「ホラをフクザワ、ウソをイウキチ」などと揶揄されるような存在だった。しかし、戦後の言論界における丸山の知的権威のため、上記のような福沢における「ヘイトスピーチ」的な言説は捨象され、誤読が行われてきたのだという。(IWJ・平山茂樹)
福沢諭吉がアジア太平洋戦争の時代に存命だったら・・・
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