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3・1運動の「宣言書」の現代日本語訳の意義・東アジアの平和、人権、民主宣言~外村大・東京大学大学院教授による解説

 最近、日本の外務省が韓国への渡航者に対して異例の注意喚起を行ったことは、大手メディアの報道によって多くの方々に周知されたように思われる。その注意喚起なるものは、今年は日本が植民地支配していた朝鮮で、3・1独立運動が起きてから100年となる、今年3月1日に韓国各地で開かれるデモに日本人が巻き込まれる危険があるというものだった。

 NHKは、「27日に開かれた自民党の外交関係の合同会議で、出席した議員からは『韓国で日本人がデモに巻き込まれたり、危害を加えられたりすれば、悪化している日韓関係は破滅的になる』などと、懸念する声が相次ぎました」などと、さも正当な懸念が自民党より発せられたように報じた。

 当該記事は、さらに、河野太郎外相が上記の自民党から発せられた「懸念」を、そっくりそのまま韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相に対して伝えたことにも、何の疑問も呈していない。

 しかし、朝鮮3・1独立運動を記念する集会が開かれるからといって、すぐさま「日本人がデモに巻き込まれたり、危害を加えられたり」すると決めつける根拠は何だろうか。朝鮮の独立運動が、日本を恨み、敵視する暴徒によるものだったという根拠のない思い込みをもとに、現在でも同じようなことが起きると妄想をたくましくしているだけなのではないか?

 そもそも、政府・与党は、在韓の邦人がデモによって危害を加えられるといった懸念を抱いているのなら、なおのこと、隣国との険悪なムードを一刻も早く解消すべきではないか。また、メディアは日韓関係の改善に向けて、必要な情報発信を試みるべきであって、まして険悪なムードを助長しかねない報道の仕方を見直していく必要があるはずではないか。このように次々に疑問が浮かんでくる。

 その疑問に答えるためにはまず、3・1独立運動に参加した人々が、どういった主張をしていたのか、先入観を排して紐解かなくてはならない。具体的には、1919年3月1日に読み上げられた「宣言書」をじっくり読む必要がある。しかし、この宣言書は、いくつかの刊行史料集で漢文調の原文を尊重した日本語訳が所収されているが、史料読解になじみのない人にとっては、必ずしも読みやすいものではない。

 しかも、そうした刊行物として、容易に読めるようになったのは、意外にも1970年代のことなのである。すくなくとも、1945年に連合国に降伏するまで、ほとんどの日本人は3・1独立運動の「宣言書」を読んだことがなかったのである。現在でも「宣言書」の内容が周知されているとは言い難い。

 そこでぜひとも紹介したい試みがある。『週刊金曜日』第1221号(2019年2月22日)では、「100年前のろうそくデモ 3・1朝鮮独立運動」という特集が組まれ、3・1独立運動に際して読み上げられた「宣言書」が現代日本語に訳された。

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▲『週刊金曜日』第1221号(2019年2月22日)

 この現代語訳の意義は大きいと感じ、週刊金曜日編集部にIWJへの転載を依頼し、同誌での解説を担当された東京大学総合文化研究科の外村大(とのむら・まさる)教授にご寄稿をお願いした。現代語訳の転載を許可くださった週刊金曜日編集部、および転載に際してあらためて解説文をお寄せくださった外村教授に感謝申し上げる。

 この記事を目にされた方には、「もし1919年の段階で日本人のほとんどが、3・1独立運動の『宣言書』をきちんと読んでいたら、1945年の破局は避けられたのではないか」という思いで、外村教授の解説を手がかりに、「宣言書」の現代日本語訳を読んでいただきたい、と切に願う。そして、そうした歴史をふまえれば、いまだに日本人は、根拠のない思い込みをもとに隣国に接するという悪癖を克服していないのではないか、と考えるきっかけとなれば、この記事の目的は果たされる。

 宣言書の現代語訳中には「道義を見失った日本を正しい道に戻して、東アジアをささえるために役割を果たさせよう」との一節がある。そうした朝鮮独立運動家による100年前の訴えに、わたしたちが正面から向き合わねばならない段階にきている。(以上、IWJ編集部)


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